ヒョンジェ監督 井上泰治による撮影現場雑記

新世界

「ヒョンジェ」のクランクイン初日は、大阪は新世界でした。まずは、新世界商店街での純(高野八誠)となつみ(芳賀優里亜)のデートシーンから撮入でした。高野君は初めてのリーゼントヘアー。初日はなかなか髪も馴染まないようで、メークさんもずいぶん時間をかけてようやく出来上がりました。
続いて、音楽プロデュースもやっていただいた大西ユカリさんがママ役をされた喫茶店のシーンに入りました。大西さん、最初から気合も入っていて、高校生役の若い俳優たちを圧倒していましたね。しっかり大阪のオバチャンをやってもらいました。
奥田瑛二さんの紹介シーンもやはり新世界の手打ちが残るパチンコ屋さんで撮影しました。「出ないぞ」とパチンコ台を叩く奥田さん。その奥田さんを「ええかげんせえ!」と怒鳴るオッサン役で、やはりラストテーマ曲を歌っていただいた木村充揮さんが出演。こちらも堂に入った芝居(素だったのかも知れません?)で、スタッフも驚かされました。
1970年代の再現をするためには、古い映画館などが残る新世界界隈は、正にうってつけのロケ地でした。

大阪南港

シージャック事件の撮影現場でした。巨大な鉄工所をバックにシージャックされたプレジャーボートを海上に停泊させ、その周囲を海上保安庁の警備艇が走り、岸壁からは奥田瑛二さんらの狙撃隊や機動隊が張り付く。この映画の中で最も時間と手間をかけたシーンの撮影でした。各船舶とは無線でやり取りをして位置を決めていきますが、波もある海上で船はそう思い通りの位置に入り、留まることは容易ではありません。しかし、操舵をやっていただいた方たちの技術と根気で何とかその難しい場面を撮り切ることが出来ました。
狙撃隊の体長役であった松方弘樹さんは、隊員たちを相手に長々と訓示を述べねばなりませんが、流石に決めるところはビシッと決めて、その存在感は、作品の厚みに繋がるものでした。
終わってみれば、スタッフ、キャスト全員真っ赤に日焼けしておりました。
またシージャック犯役の金山一彦さんや人質役の若い女優さんたちは、一日ボートの上で波に揺られていた訳で、ようやく撮影終了した時には岸に上がっても足元がふらつく有様でした。おまけに金山さんは弾丸を受けて血だらけ。本当にご苦労様でした。

天下茶屋

工場の昼休み、仲間から一人外れて、パンと牛乳で昼食を済ます加納(奥田瑛二さん)を雑誌記者・沢嶋美希(坂上香織)が訪ねてくるシーンの撮影でした。
長いコンクリートの階段が舞台となりました。その眼下に広がる天下茶屋の街並み。夏の日差しが容赦無く照りつける中、一月の設定ですので、奥田さんも坂上さんも冬衣装をしっかり着込んでの芝居でした。我慢大会並みの大変な仕事ですが、二人とも顔には汗も出さずに(出せずに)最後まで頑張られました。
奥田さんの飲む牛乳は、今ではほとんど製造されていない三角パック牛乳。それを北海道で製造しているところがあると小道具係りさんが調べて、航空便で取り寄せたものでした。時代の再現はそんな小さなところへの拘りから作られていきます。

守口市内

純(高野八誠)たちロックバンドグループと朝鮮高校生たちの喧嘩、その逃走追跡シーンの撮影を行いました。古いアパートなどが立ち並ぶ街並みが、やはり70年代の匂いを出してくれる場所でした。そして、純が乗って逃げるバイクや追いかける朝高生たちの軽トラックなど、地元のバイクショップのご協力でやはり70年代の物を集めていただきました。長く使用していない物もあり、撮影中にエンストを起こし、それをまた急遽修理したりとスタッフの陰の苦労もあって、無事故で撮影は終わりました。

松竹京都映画撮影所

必殺シリーズなどの名作時代劇を多く作り出してきた撮影所です。ここでは、加納親子の住むアパートや、加納行き着けの居酒屋のセット撮影が行われました。居酒屋の親父役は石倉三郎さん。咥え煙草で調理しながら交わす加納との会話は、実に味わいのあるものでした。加納にヨンチョル(ハ・ヨンジュン)が兄のことを切々と語るシーンもこの居酒屋で撮影されました。3分を超える長いカットでした。クライマックスとも言えるそのカットは何回ものテストを経て、ようやく本番。迫真の芝居が撮られたものの、実は、後日に撮り直しとなりました。ビデオ撮影ならば本番終了後にチェックが行われ、トラブルがあれば直ぐに撮り直すことが出来るのですが、「ヒョンジェ」はフィルム作品。数日後に現像場でネガフィルムに傷があったことが判明したのでした。そのために再度、このカットは撮り直しになったのです。同じ撮り直しをするのなら更に良いカットを撮ろうと奥田さん、ヨンジュン君始めスタッフも手直しを重ねて臨み、大きな仕事を終えることが出来ました。

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